« 荒川弘『鋼の錬金術師 13巻』ガンガンコミックス、2006年 | トップページ | 小野紀明『二十世紀の政治思想』岩波書店、1996年 »

2006年3月28日 (火)

頼山陽著/頼成一・頼惟勤訳『日本外史 (上)』岩波文庫、1976年

『自由党史』に描かれる尊皇意識が気になって、幕末維新期の人々に広く読まれたという『日本外史』を読んでみた。

岩波文庫上巻では、平氏から新田氏までが列伝体によって叙述されている。

さて、私の関心の尊皇意識であるが、本書を読むことでそれは醸成されるであろうか。正直、私には分からない。たしかに、我々が親しむ歴史とは異なり、武家の列伝中に、楠氏と新田氏があまれている事で南朝側への目配りをしている。しかし、事実としての朝廷の失策は消せないのであって、正統性は持たすことはできるが、正当化はできない。ならば、皇室に忠義を尽くす武士達の生き方に焦点を合わせることしかできない。つまり、天皇をとりまく武士達を生き生きと描くことで、読者に武士のあり方を学ぶモデルを提供しているように思えるのである。そして、その中心にある天皇は、それを見守る無作為な存在であるということを表しているようにも思える。

本書の特徴は、人物中心の歴史であるため、登場人物達の葛藤や嫉妬など生のやりとりによって、政治が動いていることを示している点である。それは、平氏や源氏の論賛において、彼らが勃興し、朝廷が衰えた理由として、功労を報いる手段を誤ったためだと記している。これは、政治というものが利害対立と権力抗争であるという点を端的に指摘しているように思える。

統治者としての政治は、如何に不安要因を取り除き、秩序の安定を計るかにある。被治者とすれば、如何に自分の利益を統治者に認めてもらい、正統性を確保するか、である。政治はこのバランスの上に成立しており、これが崩れる時、体制の変革が起る。体制の変革を望むものは、統治者の行為が如何に被治者の利益を阻害するかを確認し、声を挙げ、人々を動員する手段に心血を注がなければならない。

本書は、人物中心の歴史叙述のため、人間同士の争いが如何にして起り、如何にしてそれを治めるかのケーススタディを提供してくれる。つまり、現実主義的な政治観を学ばせてくれる教科書にもなるわけである。本書を愛読した維新期の元勲達のある種の現実主義はこのあたりにもあるのかもしれない。

これに対して、明治期に著された竹越三叉『二千五百年史』は、日本の歴史を東の民主主義、西の専制主義というようにイデオロギーにおいて叙述されている。このような変化が人々に与えた影響を論じる能力も準備も私にはないが、歴史を通しての政治を思考するにあたって、何らかの変化があったのではなかろうか。

歴史叙述は、時代を表す一つの鏡である。それをみることで、時代の一つの側面を眺めることも可能だろう。歴史の著者は、時代に超然とした個人ではなく、時代に作られた個人という側面があるからだ。歴史書も奥深いものだなぁ。歴史論も面白いかもしれない。

|

« 荒川弘『鋼の錬金術師 13巻』ガンガンコミックス、2006年 | トップページ | 小野紀明『二十世紀の政治思想』岩波書店、1996年 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

歴史・思想」カテゴリの記事

岩波文庫」カテゴリの記事

コメント

If you're in uncomfortable position and have got no money to get out from that point, you would require to receive the credit loans. Because that would aid you emphatically. I take car loan every time I need and feel myself good just because of this.

投稿: SchmidtRachelle18 | 2012年5月27日 (日) 16時56分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 頼山陽著/頼成一・頼惟勤訳『日本外史 (上)』岩波文庫、1976年:

« 荒川弘『鋼の錬金術師 13巻』ガンガンコミックス、2006年 | トップページ | 小野紀明『二十世紀の政治思想』岩波書店、1996年 »