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2006年3月 6日 (月)

山室信一・中野目徹校注『明六雑誌(上)』岩波文庫、1999年

河村又介の論文を読んだら、明治期の思想にもっとふれていなければ、と反省。とりあえず、明治初期の代表的知識人らの著述を楽しめる本書を手に取った。

本書は、義務教育の日本史にも出てくる著名な雑誌を編集したものである。日本語論争や「学者職分論」、「妻妾論」や宗教問題など、近代日本に関心があるものならば、一度は見聞きしたことのあるものばかり。しかし、実際、これを読む者はあまりおるまい。実際、恥ずかしながら、私も初めて読んだ。「先生の論はリベラールなり」と加藤弘之が福沢諭吉を評した言は、有名ではあるが、実際読んだのは初めてだった。

本書に登場する人々の特徴は、自由主義であることだ。この場合の自由主義とは、私人の自由である。いわゆる国家や社会の「権力からの自由」を意味する。明六雑誌同人がラディカルであるのは、やはりこの自由に関してであって、国家権力に関わる「権力への自由」は、箕作麟祥が「リボルチーの説」で国家の主権に人民が加わらなければならない、としてはいるものの、在野政治家が民撰議院設立の建白書を提出した際、冷ややかな対応をしていることから、漸進主義を基調としている。加藤弘之は明治15年『人権新説』において、漸進に「リベラール」というルビをふっている。ここからも彼ら(加藤だけか)の自由主義が何を意味するか知れよう。

彼らは、社会上の自由と国家権力に関わる自由を明確に分けているように思える。社会上の自由を享受し、これに適応できる者でなければ、国家権力に関わることはできない。自身の独立を保持することのできない者に、行政官を辞任に追い込む力はないし、権力による懐柔を拒否できないからであろう。ここに彼らの参政権における納税用件の理由があるのであろう。独立生計を立てられぬ者は、権力側のクライエンテリズム(恩顧主義)の誘惑に勝つことはできない。

日本政治の特徴を恩顧主義で説明しようとした小林正弥氏は、制度の変更によって、現実の国民の政治意識が変るとする主張を徹底的に批判し、戦後政治学が基調とした日本の精神文化の特殊性を指摘し、政治意識を変えなければならないとする。民権派が、民撰議院が国民に学習効果を促すとして、制度変更を主張したのに対して、明治啓蒙が政治意識や独立生計にこだわったのとパラレルな関係を見ることができる。明六雑誌同人の政治観は、後の「進歩派」の原型をある意味示しているように思えてしまった。

しかし、本書岩波文庫版は全三巻であるらしいが、1999年に上巻が発刊されて以来、続きが出ていない。続刊を望んでやまない。

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