小沢民主党の前途
民主党の新代表に小沢一郎氏が選ばれた。
以前の記事でそれは予想していたことであり、別に驚くに値しないし、自民党との対立軸も予想しておいた。だから、特に論じることはないのだけれども、こういうナマモノに食いついておくのも無駄ではないだろう。
私は今後の自民と民主の対立は、均衡財政と積極財政という軸となるとした。これは、小沢氏が従来、新自由主義の旗手としてイメージされてきたことからは出てこないことであろうが、私は必ずしもそうは思わない。先の衆院選やその前の衆院選で見えてきたのは、自民党が都市型政党に変ったということだ。
昨年のそれは分かるとして、その前の年の特徴は、従来都市型といわれた民主党が地方で善戦していたことだ。これは単に当時の小泉政権が衰退期に入っていたからだけでなく、そもそも地方に地盤があった自民党が小泉政権発足以来、地方への失業対策である公共事業を削減していった経緯がある。そのため、地方出身の有力議員を有し、都市型にもなりきれず、地方を切り崩していき、自民党は議席を減少させた。あの選挙は、まさに都市型自民党の過渡的な選挙だったわけだ。しかし、昨年の郵政政局で地方型の政党人を切り捨てることに成功し、自民党は生まれ変わった。
そこにきて、小沢氏の民主党代表就任である。たしかに小沢氏は90年代から00年代までの改革のモデルを作った人物である。しかし、彼にも師匠である田中角栄の遺伝子を強く引き継いだ部分がある。均衡ある国土発展という点である。小沢氏は、著名なその『日本改造計画』で「東京からの自由」という節を設け、東京一極集中型から、調和の取れた分散型の国土政策を訴えている。そこには新幹線網や高速道路網など、現在では削減の対象とされるような公共投資を強く推進する意志が見えてくる。つまり、市場に任せた経済政策では、効率の良い東京に経済拠点、人が集中してしまうため、国があえて流通経路を作ることで人を地方に分散させ、産業を振興させようとする積極政策が採られるというわけだ。
増田悦佐『高度経済成長は復活できる』(文春新書、2004年)で、60年代の高度経済成長が止まったのは、1972年の田中角栄政権の成立により、都市に投資すべき公共事業を非効率的な地方に投資する政策が採られるようになったからだと主張している。所得倍増計画は、吉田系の池田勇人内閣からと思われがちだが、実は最初に着手したのは現政権の源流でもある岸信介政権だった。つまり、60年代の経済成長は、50年代に岸が既に準備していたものが開花したものなのだ。そして、そこで得た美果を田中角栄は地方へと還流させていった。
これは都市中心の経済成長を旨とする中央官僚グループに対する都市の繁栄を人材という面で支えてきた地方人の復讐であった。しかし、それは産業基盤のない地への投資という非効率性から、国全体の国力を低下させていった。そこで逆に富を地方に搾取された植民地の如き都市の逆襲が、小泉構造改革というわけだ。小沢氏が小泉政治を官僚政治というのも故なしとしない。小沢氏の掲げる政治主導とは、ここ30年の利益誘導政治に堕する可能性を秘めたものだ。
さて、来るべき安倍自民と小沢民主の対立軸は、これにとどまるだろうか。もう一つ、小沢氏が掲げる靖国問題も関わってくるだろう。つまり、歴史認識である。これも上記のストーリーと親和性がある。というのは、小泉自民の源流は、小沢氏が靖国から外そうとするA級戦犯と同様、戦犯容疑をかけられた岸信介だ。つまり、彼らは戦前との連続性にアイデンティティを有するグループなのである。それに対し、小沢民主の源流は、非エリートの田中角栄という戦後の立身出世神話を体現する人物だ。ここに戦前エリートと戦後民主主義という亀裂が存在する。戦争責任に関して、中華人民共和国は、加害者である指導者と被害者である人民という神話を創ったが、このグループ間の対立もこれに依拠する部分もある。思えば、田中内閣が日中共同声明を出せたのも、この神話を共有していたからかもしれない(福田赳夫内閣の日中平和友好条約は、アメリカ側の働きかけと、中ソ対立などリアリスティックな観点に強く影響を受けている)。
小泉首相は、靖国参拝にこだわる戦前的部分と、アメリカ軍を解放軍と無邪気にいえる戦後体制の擁護者の面とがバランスよく組み合わさった人物だった。しかし、後継者であろう安倍晋三氏は血筋から戦前を強く引き継ぎ、意識的にそれを演じている。小沢氏は、戦前になんら共感を持たない人物である。彼の憲法改正論は、国家の独立と何ら関係のないところで主張されている。
今後の政界は、財政政策、都市と地方、戦前エリートと戦後民主主義という対立軸が、ヴィヴィッドに現れてくるようになるのではなかろうか。もちろん、9月以降も小沢続投、安倍自民誕生が実現するなら、という仮定の上であるが。
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