鹿野政直『近代社会と格闘した思想家たち』岩波ジュニア新書、2005年
本書で分かったのは、二点。自分が随分と不勉強であったこと、なぜ団塊世代の日本政治思想史研究者が近世をやるのか、ということ。
1点目に関しては、分かりやすい。本書は各人5、6頁の列伝方式で25人もの人物をとり上げているが、正直言って「誰よこれ?」という人が多い。かつて橋川文三が民権運動か何か(失念した)の研究書を読んで、「明治期の人物については、ほとんど知っているつもりだったが、見知らぬ名前が多いことに驚いた」というのを読んで、いつかは自分もこういう発言をしたいものだと思ったが、私は本書のようなものでも、それにぶつかった。
名前ぐらいならという意味でだいたいは見知った人物ばかりだが、「野村芳兵衛、誰?」、「若月俊一、誰?」、「知里真志保、誰?」、「黒島伝治、誰?」というように、一般概説書では現れない人々にふれることができたし、「山宣」こと山本宣治は政治史で現れる暗殺された無産政党の代議士とセクシャリティ研究に現れる生物学者という双方は知っていたが、どうもそれが一致していなかった私には大変勉強になった。本書がイマイチマイナーな人物を取り上げるのは、本書がテーマにする「近代の日本思想」ではなく、「日本の近代思想」(著者には同名の著作がある)によるものだろう。前者は、近代を指標とする視点からえがく方法で、後者は日本における近代を問題にする視点だ。この後者の視点が2点目に繋がる。
日本における日本政治思想史の創始者は丸山眞男だが、彼の前期における後継者は主に明治期以降の近代のゆがみを問題にする研究者が多く、また対象が近代もしくは現代だけに「政治学者」という肩書きにもピタリとはまるような人が多かった。しかし、後期の後継者となると徳川思想史を専門としたり、それからの延長で近代思想家を扱う「思想史家」が多いように私には思われた。これは何故だろうと思っていたが、本書のプロローグを読むとなるほどと思うことがある。
それによれば、1970年前後、「その時期に噴出した公害、ひろがった大学紛争、爆発したウーマン・リブ、さらにベトナム戦争は、いずれも関連しつつ、『近代』を問う性質を帯びていた」(4頁)という。なるほど、現在の50代の研究者はまさにこの時期に自分の研究課題を探す時期にあたった。彼らが「近代」を相対化する目的のために、従来のいかにも「近代」の人物を焦点とした研究をすることには躊躇が生れよう。しかし、ならば何故、本書がとり上げるような「近代」から片隅に追いやられたような人々に目がいかなかったといえば、要するに個々人としては興味深く、また価値のある人々であったには違いないが、研究対象としては物足らなさがあったからだろう。もっとも、これは丸山の弟子というくくりに限られる。丸山に直接指導されたわけではないが、久野収に弟子と思われていた評論家松本健一氏の初期の作品は、「近代」日本と闘い、周縁に追いやられた人々を焦点に当てているし、私学出身者も同様の傾向がある。
これが現在40代の研究者になると、また近代に戻っていく。これは、上の世代への反発もあると思われるが、何よりも「近代」を問題にする以前に、日本に「近代」なんてあったのか?という疑問が生じて、やはり「近代」を中心に研究せざるを得なかったように思える。しかし、80年代のポスト・モダンの影響も受けているために、別に「近代」を絶対視するようなドロくささはなく、その一方で「近代」を自明のものとした上で、それに何かプラスアルファできる価値を探究しようとしている。
さらに30代になるとまた近世に戻る。これは、彼らが研究生活に入り始める時期に脂ののっていた世代が、現在の60前後にあるため、手本とするのが近世のものという意味があろう。この時期になると政治思想史が歴史学化して久しくあるため、大きな問題関心というよりも専門領域として確立された政治思想史を学問として純粋に取り組んでいるのかもしれない。
とすると、20代は?また近代に戻るのだろうか。たしかに彼らの学生時代には、近代史が政治問題化する時期にもあたっていて、そこへの関心は否応なく押し寄せてきただろう。さらにそれに付随して、戦後日本のあり方も問題視されるようになった。うーむ、どうなるのでしょう。
鹿野著からはかなり離れてしまったが、本書を読むとこのような印象を持ってしまった。このジュニア新書って、おそらく中高生向きに書かれているのだが、本書を手に取る中高生はいるのだろうか。普通の中高生はこんな本読まないし、ちょっとレベル高かったりすると普通の新書だし、かなり高いと岩波文庫にいっちゃうだろうし。ちょっと日本思想に関心のあるおじさんや教師のネタ本用のような気がするのは私だけでしょうか。
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コメント
失礼します。
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投稿: あだち | 2008年6月19日 (木) 11時53分