山田風太郎『妖説忠臣蔵』集英社文庫、1991年
『妖説太閤記』があまりにも面白く、『忍法忠臣蔵』も「忍法帖」シリーズ屈指の傑作であったため、風太郎先生が「忠臣蔵」を忍法以外で料理するとどれだけ面白いものができるのかと期待し探し求めていた本書をやっと発見し、喜び勇んで読んでみたが、少々ガッカリ。期待はずれだね。
とりわけ冒頭の「赤穂飛脚」は、指令を受けた無頼者が赤穂藩への早打ちを襲うというもので、主人公のお銀のように色気のある美女も登場するということで、「忍法帖」風味のある作品であるが、あまり面白くない。短編だけど長いというだけで、ストーリーにそれほど入っていけず、吉良が領内で名君とされているが「どうせ年貢をウンとまきあげる方便だろうが」と辛辣に指摘しているのが面白いくらいで、退屈してしまう。本書で面白かったのは、貝賀弥左衛門を主人公とした「俺も四十七士」と「蟲臣蔵」ぐらいか。解説を読んでみるとどうやら、本書の単行本は7篇で、この文庫は作者の自薦の5篇が収録されているということらしいが、落とされた2篇の方が面白そうだな。しかし、初出をみると「殺人蔵」が『オール読物』1955年12月号で「赤穂飛脚(原題「走る忠臣蔵」)」が『面白倶楽部』1957年5月号で、その他はその間にあるとのことなので、これらの作品が傑作『忍法忠臣蔵』(1962年)につながったと思えば、悪くない試作品だったのかな、とも思えてくる。
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