« 『仁義なき戦い』1~5、1973~74 | トップページ | 山田風太郎『警視庁草紙 下』ちくま文庫、1997年 »

2008年2月12日 (火)

南條範夫・原作/山田貴由・漫画『シグルイ』秋田書店、2004年~

話題にはなっていたが、なかなか手が伸びずにいて、ほうっておいたが、ついに読んでしまった。面白い。ここまでやるか、という肉体と残虐な描写。発想としてはあっても、現実に乳首を指でつまんで切り取るとか、腹をつかんで臓物を引き出すとか、初めて画でみた。こんなもの描いてしまう人がいたんですね。怖い。けど凄い。

舞台は、徳川時代初期。徳川家光との後継争いに負けて、精神に異常をきたしている残虐な暴君徳川忠長は、武芸者の真剣による殺し合いを見てみたいと、御前試合を設ける。出場剣士11組22名、敗北による死者8名、相討ちによる死者6名、射殺2名、生還6名、内重傷2名という惨憺たる結果に終った御前試合の第一戦目は、同じ道場に学んだ因縁のある、隻腕の剣士・藤木源之助と盲目で片足が不自由な伊良子清玄。物語は、彼らが出会う遠江国岩本虎眼道場から始まる。

本作の主人公は、藤木と伊良子であるが、読者の視点は、夜鷹の息子で最底辺から成り上がろうとする天才剣士の伊良子ではなく、藤木よりのものとなっている。原作がどうなっているかは分からないが、野心家の伊良子はかなり悲劇的な人物で、『ベルセルク』のグリフィスのような存在だが、伊良子へのリンチに加わっている藤木が主人公になり得るのは、御家大事と考える愚直さが誠実さに見えるのに対し、伊良子のあまりに破壊的な野心のためだろう。しかし、それにも増して、彼らの運命を変えてしまう魔人・岩本虎眼の存在感が凄まじい。濃尾無双を名乗り、将軍指南役の柳生宗矩をも凌駕する実力を持ちながら、300石の扶持に甘んじている。そして、この物語の時代には、すでに精神が「曖昧」な状態で、狂気を発している。この不気味な人物を造形したところで、本作が傑作になりえた理由であり、原作では30頁程度という第一戦が、すでに単行本9巻にまで及ぶ大作になってしまったのも、彼の存在感のためだろう。これ以上書くと完全なネタバレになるからやめときますが、いやー、つづきが気になります。

余談だが、原作者南條範夫は、國學院大學や中央大学の教授を歴任した学者小説家で、『願人坊主家康』説(林羅山が言及している出生の異説)を採用したことで知られているが、本作でも何の説明もなく、これに言及していることに驚く。読者は、みな『影武者徳川家康』を知っているのだろうか。また同時期に連載が始まった『センゴク』の描写でいちやく有名になった豊臣秀吉「指六本」説もふれられ、岩本虎眼の人物造形にも使われているのをみると、異説を採りいれた原作者へのオマージュの意味もあるのかな。

今日の一枚

Radiohead『In Rainbows』。新作を出すたびに今年最大の傑作になってしまうレディオヘッド。何か、彼らを好きだとプロフィール欄にでも書いておけば、ロックが分かっているとか、カッコイイとかいう雰囲気のある、口に出してハズレのないバンドである。しかし、私はいまだにその魅力をつかめていないカッコ悪い人間です。かといって毛嫌いしているわけではなく、全作品持っていて聴いている。だが、いいものなのだとは思うが熱狂的に好きになるというものにならない。私が好きなのは『The Bends』で次が『Pablo Honey』で、あと『Hail To The Thief』のジャケットがスイスの画家パウル・クレーに似ていて好きだが、それ以外はイマイチよく分からない。それなのに、売れている。純粋な音楽ファンにだけ受けているというなら、分かる気がするが、大衆的な人気を博していることに驚く。みんな本当に聴いていて楽しいのだろうか、ファッションとしてハズレがないからだろうか。分からない。しかし、レディオヘッドのおかげで自分が音楽の分からない野暮な男だとやっと気づいたので、EXILEさんとかコブクロとか聴いている人に眉をひそめることはなくなりました。結局、音楽の好さなんか、好きか嫌いかなのでしょう。しかし、音楽の分かるクールな方々には本作はお薦めです。

|

« 『仁義なき戦い』1~5、1973~74 | トップページ | 山田風太郎『警視庁草紙 下』ちくま文庫、1997年 »

「アニメ・コミック」カテゴリの記事

「音楽」カテゴリの記事

コメント

『デビルマン』=『なるたる』ではないかと思います。

投稿: 戦うアルジャーノン | 2008年2月13日 (水) 11時25分

>戦うアルジャーノンさん

コメント、ありがとうございます。
『なるたる』というのは、『ぼくらの』の鬼頭莫宏の作品らしいですね。どうやら有名な作品のようですが、不勉強ながら私は未読です。世の中には、読まなきゃならない作品が多いようです。。

投稿: 先哲有言 | 2008年2月13日 (水) 14時54分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/50420/10458444

この記事へのトラックバック一覧です: 南條範夫・原作/山田貴由・漫画『シグルイ』秋田書店、2004年~:

« 『仁義なき戦い』1~5、1973~74 | トップページ | 山田風太郎『警視庁草紙 下』ちくま文庫、1997年 »