三浦展『下流大学が日本を滅ぼす!』ベスト新書、2008年
前にも書いたが、私はこの著者をあまり信用していない。著書自体は、現在のある程度の傾向を知るためには面白いものだという印象を持っていたが、本書を読んでたぶんもう読まない、という気分になってきた。
本作は、一言でいえば、倒産を恐れた大学がどんな学生でも入学させてしまい子供たちの社会進出を遅らせ、ひよわで役に立たない大人を量産している、というところだろう。
私自身も「お客様世代」の尻尾に連なるものとして耳が痛いが、著者は少々ヒートアップしてきて、一体想定読者は誰なんだ、というほどに「下流」人間たちをこき下ろす。著者が30代のころは若者に媚びたようなものを書いていたのに、50代にもなると若者を罵倒したくなってくるらしい。新書の読者層は、通勤の長いサラリーマンだといわれるが、こうしたおっちゃんたちも「そうそう、今の若者、困るんだよね」とうなずくかもしれないが、一方で低学歴者を小ばかにしたような内容にどんな感想をもつだろうか。
まぁ、それはいいとして、最後の提言として、できるだけ若者を社会に出す仕組みとして高校を廃止し、中学を3年とし勉強を続けたい者はさらに3年の期間を与える、大学は学問をする場の4年制大学と職業大学の2年制大学して、4年制大学進学率を20%にとどめる、早い者では17歳で大卒の社会人になれる、というものがあった。
なるほど、確かにこれはいい提案かもしれない。学ぶ意識のない者が社会に出ても役に立たないような勉強をする場である大学に進学するという状態を変えられるし、大卒信仰も緩和されるだろう。しかし、この構想だとかなりの中卒者がでるだろうし、10代で社会に出る人々も増大する。著者は、これのほうがいいというだろう。私も以前はそんな風にも考えたものだが、最近考えを変えた。
そもそも何でこれだけ勉強する意識のない子供を進学させ、本作にも書かれているが底辺校ではひらがなも書けない高校生の存在を文部官僚は何十年も前から知っていたのに放置させているのか。著者は、国土交通省が道路を作りたがると同様に既得権益を手放したくないから、と述べているが、別の要因があるような気がしていたのだ。
それは少年犯罪の抑止だ。
http://kangaeru.s59.xrea.com/G-Satujin.htm
こちらは少年犯罪のグラフで、最近は常識になってきたが少年犯罪のピークは昭和35年前後で、その後急激に犯罪は低下し、現在に至っている。この原因は何かなと思っていたが、それは高等教育機関への進学率が一つの要因になっているらしい。
http://www.gender.go.jp/whitepaper/h17/danjyo_gaiyou/danjyo/html/zuhyo/G_32.html
こちらのグラフを見ると分かるように昭和40年あたりから高校進学率が、また大学進学率も急激に上昇している。また少年犯罪が沈静化した昭和50年代以降は高校進学率が90%以上、大学進学率が40%前後で安定し始めた時期にあたる。おそらく頭のいい人がすでに指摘していると思うが、私は最近それに気づいてなるほどと思ったものだ。では、戦前との相関関係はどうなんだ、という感じだが、確かに昭和30年前後の突出振りは異常である。しかし、これはこの時期の高度経済成長により、旧来の社会秩序に変更が起こり、またこの時期の集団就職という形で都市に少年たちが集まり、地方の共同体から離れてアノミー化した若者たちが犯罪に走ったと見ることができる。
おそらく、当時の行政関係者は少年犯罪の急増に恐れをなし、少年たちを管理の届く場所に押し込めておく必要を感じて高校・大学進学を促したのではなかろうか。まぁ、かなり印象的なものだし、10代職業人に偏見を持たせてしまうような話になってしまったが。。
そんなわけで文部官僚たちは、高校・大学進学の必要のない者まで高等教育機関に行かせることによって社会秩序の維持を図ったのではなかろうか。三浦氏の提言は、学ぶ必要のない者を早々卒業させて、社会性を身につけさせるというものだが、一方で一箇所に押し込めて管理しやすかった若者たちを社会に分散させることで、犯罪のリスクを高める可能性を秘めている。三浦氏は、妙な猟奇的犯罪を無個性な郊外の都市に原因があったというような発言をしていたが、今回の提言はさらなる犯罪のリスクが高まる要因ともなるので、そのあたりのケアまで考えていかないとずいぶんと危険なものともなりかねない。
三浦氏は人間は社会に出ればまともになると考えているようだが、それはエリートサラリーマン社会で暮らしてきた者のある種の偏見であるかもしれない。ゼミの発表に質問したら泡を吹いて失神してしまう学生にも困ったものだが、気弱で自主性のない学生たちの面倒を見るか、犯罪率の上昇の可能性をどのようにケアするか、ということも発言力の強いらしい著者は考慮に入れたほうがいい。
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