山田風太郎『幻燈辻馬車』上下、ちくま文庫、1997年
時代は明治初期。主人公は元会津藩士で妻を戊辰戦争で薩摩将校に死に至らしめられ、息子は主人公と共に西南戦争に薩摩への仕返しとばかり従軍したが戦死。その後は息子の残した孫と共に辻馬車を生業としている。その平和に暮らす祖父と孫の中に、政府による苛烈な弾圧にあっていた自由民権運動壮士たちと出会い、彼らの起こす事件に巻き込まれていく。。
『忍法創世記』とはうってかわって、こちらは名作。実際はとてつもなく強い剣豪であるにもかかわらず、戦いは西南戦争で懲りた復員兵士である主人公はまるで『壬生義士伝』の主人公のような哀感漂う人物造形をしていて、素晴らしい。また、『戦中派不戦日記』を読んで、やっと分かったが、風太郎先生の主人公が常に前時代の影響から逃れられず、新政府にはちょっかいを出しつつ反抗はせず、新しい人々(民権派など)に共感を覚えつつも全面的に献身はできないという非政治的な人物にするのは、本人が戦中派であるという呪縛から逃れられず、新時代の風潮や道徳に挑戦的な作品を世に出しからかい、選挙ではいつも共産党に投票しながらも細川護煕首相の「侵略戦争」発言に違和感を感じるという生き方そのものを表しているんだな、と。
本作では民権派の壮士について、史実を交えつつ、エンターテイメントしていく過程で勉強になる。あと「明治忠臣蔵」では、後藤新平がずいぶんと奇怪な人物として描かれていて面白かった。
登場する主な歴史上の人物
「幻燈辻馬車」
三遊亭円朝、4代目橘家円太郎、三島弥太郎、大山信子、山川健次郎、赤井景韶、花井お梅、八杉峯吉、来島恒喜、川上音二郎、川上貞奴、松旭斎天一、伊藤博文、徳富猪一郎、中江兆民、田山花袋、土肥庄次郎(松のや露八)、坪内逍遥、西郷四郎、嘉納治五郎、大山捨松、大山巌、斎藤歓之助、斎藤新太郎、河野広中、三島通庸、錦織晩香、志賀直道(三左衛門)、志賀直哉、鯉沼九八郎、琴田岩松、原胤昭、松田克之
「明治忠臣蔵」
相馬誠胤、戸田京子、志賀直道(三左衛門)、錦織剛清、後藤新平、陸奥宗光、志賀直哉、星亨、
「天衣無縫」
広沢真臣、福井かね、起田正一郎、安藤則命、大久保利通、木戸孝允
「絞首刑第一番」
山田吉亮(浅右衛門)
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