岩田規久男『景気ってなんだろう』ちくまプリマー新書、2008年
有名進学校とかに通っている高校生向けであろうちくまプリマー新書で岩田氏の新刊。
理解力が弱く、経済オンチの私には最適なやさしい文章で経済学の基本的な用語や考え方が分かりました。やはり基本が一番大切です。
おかげさまで02年からの景気拡大は製造業はバブル期以上の高収益にもかかわらず、賃金が上昇しないのは海外競争に勝ち抜くために企業が設備投資と日米貿易摩擦の教訓とアジアの低賃金労働をあてにしての対外投資とに力を入れたために賃金の安い非正規雇用の拡大と賃金上昇の抑制を図ったために「実感なき経済成長」と呼ばれてしまうメカニズムが分かりました。
また、景気対策としての公共投資が国内総生産にもたらす影響(乗数効果)は一年程度であまり期待できない。なぜなら、一時的に家計は所得を増やすものの人間は目先の金だけで行動するのではなく将来を予測した上で消費活動をする。また国債の発行は民間から資金を調達するために市場で少なくなった資金を民間企業と個人が取り合う形になる。そうすると金利が上がる。金利が上がれば、借金して設備投資や住宅投資をしづらくなる。それで需要が低下して景気が悪化する。また金利が上がると円建て預金が増えるので円高ドル安になって輸出が低下して景気が悪化する。減税も先の公共投資の家計への影響と同様に将来の増税を予期して消費を引き締める、と。
なるほど、現在の政府は今のところ公共投資よりも減税に力を入れるようだが、設備投資減税はいいとしても一年限りの定額減税は最悪の政策のようだ。また、海外での投資が増えているとなると、2005年に時限的に行われた米国本国投資法のように海外での利益を国内に還元するような政策減税が有効なのかもしれない。
それはともかく岩田氏の処方箋はやはり日銀が銀行から国債や手形を買い取る買いオペによって国債の金利を低下させて企業への融資を促すことで市中への金の流れを増やして貸出金利を低下させる金融政策だ。金利の低下は、設備投資や住宅投資、また預金を株や土地への投資へ切り替えることで市中への金を増やす、また株価の上昇は消費も増やす。そして金利の低下はドル建て預金を増やすことになって円安ドル高になり、輸出を伸ばす。市中に金が回れば資産価格が上昇してインフレが起きる。そのインフレを適度に抑制するのがインフレターゲット政策。安定的なインフレは企業や個人に投資計画や貯蓄計画、消費計画を立てやすくする。物価が上がると思えば、預金してお金を腐らせるよりは投資に回すという予期ができるからでしょう。また157頁でインフレターゲットを行っている国とやっていない日本、規制改革を行っていない独仏とその他をグループ分けした図を掲げているが、なるほど規制改革も大事だがインフレ率の上昇も必要だというのが一目瞭然で日本がダントツに成長率が低い。
まぁ、景気対策に必要なのが金融政策であるというのが分かりました。たしかに昭和恐慌の際、高橋是清蔵相の財政政策が有名だが、その効果は一年程度で翌年から大規模な国債の買いオペを行ったことが、その後5年ぐらいの好景気に結びついたといわれている。しかし、日本では金利の低下をうながす金融緩和政策が不人気だ。投資よりも貯蓄に回すことが好きな国民性というのもあるのだろう。金融政策による安定的なインフレ政策が上記のように世界的に有効であるというのは確かなのだろうが、貯蓄よりも投資を好むという文化に考慮しなければならない気がするし、金利の変動による投資行動というものを一般人は普通に感じ取れるものなのだろうか。
経済学の人間観は、他の動物と人間を分けるものは将来を予期する能力だ、といったホッブズの人間観を基礎においているようだが、その予期の上での行動は同様な知識を持たなければ、うまく回らないだろう。そういうわけで経済の教育は必要なわけで本書はその入り口として最適なものだろう。強引なまとめだ。。
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